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LIFE STYLE&BEAUTY OCT 31,2023

山、海、街を繋ぐ
人にも環境にも配慮したハンドケア
JAPAN MADE PROJECT TOHOKU

“日本の地域はおもしろい”を合言葉に各地域で取り組みを行うJAPAN MADE PROJECT(以降JMP)。今回は、JMP TOHOKUから誕生したハンドケア用品のご紹介。環境に対しての考えが深いフィッシャーマン・ジャパンとファーメンステーションが協力のもと、東北の水産業が抱えている問題に向き合った、とってもやさしいハンドケア用品なんです。そこで、プロジェクトチームのみなさんに集まっていただき、そのやさしさの秘密を探ってみました。


(左から)
フィッシャーマン・ジャパン アートディレクター 安達日向子さん
ファーメンステーション 奥州ラボ 後藤真理子さん
ファーメンステーション 代表取締役 酒井里奈さん
ファーメンステーション OEM企画 渡辺麻貴さん
アーバンリサーチ SDR(サステナビリティ推進)シニアチーフ 宮 啓明

プロジェクトチームとはじまりの話。

本連載第1弾の記事で紹介したフィッシャーマン・ジャパンと、独自の技術で地球にやさしい製品を生み出すファーメンステーション。そして、アーバンリサーチによるプロジェクトチームについて探ってみました。それぞれの強みからプロジェクト始動のきっかけを聞いてみました。

— ファーメンステーションについて教えてください。

酒井 ファーメンステーションは発酵技術が得意なバイオ系のベンチャー企業です。今は東京と岩手に拠点があり、私達は東京の浅草にある拠点にいますが、そこでは研究開発も行なっており、いろんな発酵や蒸留をしています。それと、岩手県の奥州市というところに製造工場を持っています。何をしている会社なのかというと、“未利用資源”という余ってしまったものが世の中にはたくさんあるんです。例えば、食品工場から出る残りかすなどを岩手の工場に持っていき、発酵させて機能のある素材を作るというのが得意なんです。消毒や香水とかに使えるエタノールを作ったり、化粧品に使うような発酵エキスみたいなのがあるんですが、そういう天然由来の原料を作っています。ただ原料を作るだけではなくて、その原料を使ったいろんなプロダクトを一緒に作ってお届けするというような仕事をしています。

酒井 それと、もう一つありまして、いろんな素材を作るんですが、そのプロセスで余ってしまうものがあるので、それを地元の鶏とか牛が食べる餌にして地域で循環させることも行っています。もともとは田んぼの景色が戻ったらいいな、といった環境のことを考えたりしながら始めた事業なので、そういう意味でもフィッシャーマン・ジャパンさんが言う海の環境がすごく大事っていうのにも共感をしますし、製造の中でも自然エネルギーで工場をまわすとか、水の使用量をできるだけ減らしていろんなものを作ることをしています。

— フィッシャーマン・ジャパンとの出会いは、どういったところから始まったんでしょうか?

渡辺 私達も岩手に拠点があるので、震災後から一方的に拝見はしていました。なんか漁業をすごいかっこよくブランディングされている方々がいるなという認識でした。それと、アーバンリサーチさんとは展示会でお会いさせていただいて、そのときにJMPの話も少し伺っていました。実はアーバンリサーチさんとは、COSME URBAN RESEARCHのOEMをさせていただいたのが先で、その後でフィッシャーマン・ジャパンさんとの話をいただいたのが経緯だと思います。

 そうですね、もともとはJMPにも関わっている兒玉が展示会で酒井さんたちと出会う機会があり、そのときからすごい会社があったというのを僕も聞いていて、いろいろと調べたりしながら存じ上げていました。先ほど話があった商品を兒玉が雑貨バイヤーとしてファーメンステーションさんと企画を進めていたんですが、企業姿勢であったり活動がフィッシャーマン・ジャパンさんたちともすごく相性がいいんじゃないかというのを勝手ながら思っていまして。それで、一度お話をしてみましょうという場が設けられました。それが2022年の4月5日、ですので、もう1年以上経ちます。発売に向けてはスタートから1年半くらいを目指しプロジェクトが進んでいるというような状況です。

ISOP、そして、このプロジェクトの繋がりについて。

フィッシャーマン・ジャパンが取り組む、石巻が抱える磯焼け問題に対したプロジェクト「Ishinomaki Save the Ocean Project(=ISOP)」。その活動内容と本プロジェクトに繋がったきっかけの話を聞いてみました。

— ISOPについて教えてください。

安達 フィッシャーマン・ジャパンと宮城県漁業協同組合石巻地区支所とフクダ海洋企画の3社で立ち上げたのが、ISOPというプロジェクトです。今、世界中の海で磯焼けという海藻が海からどんどん減ってしまうという現象が起きています。理由はさまざまですが石巻エリアでは、特にウニの食害が原因ではないかと考えられています。温暖化によって海水温が一年中高くなり、ウニの活動時期ではない冬でも食欲旺盛のまま海藻を食べ続けることで、海藻の成長する隙が与えられずに海底が砂漠化するという状態です。その結果として海藻とウニのバランスが崩れることで磯焼けが起きています。そこで、先ほどの3社が立ち上がって、ダイバーたちと協力して海のモニタリングやウニの駆除をしたり、海中造林という海の植林みたいなことにも取り組んでいます。

安達 ロープに海藻の赤ちゃんを巻きつけて、海の中に人工的に海藻を設置することで天然の岩盤に胞子が付着して海藻が増えたり、天然の海藻がこれ以上ウニに食べられることを防ぐための筏も設置しています。磯焼けが起きている海では餌となる海藻がないのでウニを割ってみても実入りがなく売り物にならないんです。ですので、ウニをただ駆除するだけじゃなくて海藻がたくさんあるところに移し、ウニの実入りを良くしてみようということもしています。あとは、陸上養殖でクローバーや余ったワカメを与えてウニの実入りをよくすることにも取り組んでいます。今回のJMPの企画で使用している昆布は、この海中造林用に育てていたものの一部です。海中造林用の昆布もずっと海の中に置いているわけではなく、いずれ枯れてしまったりムール貝のような種類の貝に巻きつかれてしまったりもするので、それより前にウニの餌としてそのまま海に残すみたいな形をとっているんですが、それだったらせっかくなので今回の商品用に使用してもらいました。

 フィッシャーマン・ジャパンさんとは持続可能な水産業を目指して担い手を増やす活動を8年間くらいしてきました。今までISHINOMAKI SHIRTの企画などを通してさまざまなアプローチをしてきましたが、これからもっといろんな人にこの活動を知ってほしいという想いがあり、もっと身近で手に取りやすいようなアイテムを一緒に開発できるといいなと思ったんですね。そのときに、コスメはどうかなということを思っていて、ファーメンステーションさんとご一緒させていただいて3社でプロジェクトを進めることになったんです。ファーメンステーションさんが、先ほどご説明があったとおり未利用資源というものを活用されてものづくりをされているので、何か未利用資源はあるかなという話をフィッシャーマン・ジャパンさんにご相談したときに、このISOPの話をお聞きしました。

酒井 フィッシャーマン・ジャパンさんはとにかくずっとファンでしたので、どういうことをされているのかは熟知していました。お話をいただいたとき、ちょうど私達も磯焼けのことを聞いていたこともあり、未利用資源を活用する以上のものが生まれるのではと最初から思っていました。

安達 ありがとうございます。私がすごいと思ったのは、ファーメンステーションさんがB Corp認証を持っていることです。地球にいいことしましょうとか社会の問題に取り組みましょうと言うと、ビジネスにならないことが多いというか、結局は会社のCSR部門とかの慈善事業としてやっていてビジネスとして活動をしていませんということが日本だと特に多いんです。それだと、やっぱり根本的な解決に繋がりません。そもそもそういう活動自体をビジネスにしないといけないというのが今の世界のスタンダードです。その中で、世界の名だたる環境問題や社会課題に取り組んでいる会社が取得しているのがB Corp認証というもので、この会社は社会に正しい形で貢献をしつつ、それをちゃんとビジネス化していますという公益性の高い企業に対する国際的な認証制度なんです。私たち水産業でも環境問題や社会課題へ取り組まなくてはいけない機運が高まっていたところで、それもビジネス化していかなきゃいけないというのは常に問題としてありまして。その段階で社会や環境への課題解決をビジネス化して実際にやられているファーメンステーションさんと組めるというのが我々にとってもすごく意義があるなと。そこにファッション業界であるアーバンリサーチさんが入ってくることで3社のバランスがすごく良いと思っています。しかも、3社が海洋環境のことを考えて前を見ている状況が私の中では激アツだなと感じています。

酒井 激アツですね(笑)。

3社協業によって生まれたハンドケア用品について。

ISOPの活動による海中造林用の昆布とファーメンステーションの未利用資源を活かす製造技術が合わさった今回のプロジェクト。そんなスペシャルタッグによって生まれたハンドケア用品について聞いてみました。

— 今回のプロジェクトで生まれた商品について教えていただけますか?

渡辺 まず一番最初に、アーバンリサーチさんとフィッシャーマン・ジャパンさんと今回の商品をどういうコンセプトで作っていくかという話をさせていただいたときに、やっぱり漁師さんに使っていただけるものというのがありました。それと、もう一つキーワードとして出てきたのが、石巻の皆さんにも使っていただけるようなもの。漁師さんの手を守るみたいなコンセプトにしつつ、誰でも使いやすいようなハンドケアの商品がいいんじゃないかという。そこから話を詰めていったんですが、やっぱり海洋環境というのはプラスチックの問題がすごく身近にあるので、徹底的に脱プラをし、例えばハンドクリームでよくあるチューブの容器をアルミに変えたり、製品表示の部分なども紙を巻いたデザインにしたりとか、とにかく脱プラを意識した製品開発でした。

渡辺 あとは原料で使用している昆布エキスは保湿成分として入れています。それと弊社が取り組んでいる未利用資源のオーガニック米から作った米もろみ粕エキスというものも保湿成分として加えています。中身も外側も環境に配慮した製品になっていると思います。

安達 私たちの要望として、とにかく環境に良いものをというのが一番にあり、なおかつ今までのアーバンリサーチさんとのコラボレーション商品はすごく質がいいものを作っていたんですが、その分やっぱり単価が高くなっていたので、もうちょっと手に取りやすい価格のものを作りたいよねと宮さんと話していました。漁師用のハンドクリームというわけではないんですが、とにかく海に関わる人たちがそれを使うことによって自分も海を守ることに貢献できていると思えたり、それが派生していろんな人たちが使うことで、みんなで海を守っていこうってなるのが理想で。そういうストーリーの組み立てみたいなところはありましたね。

 JMP TOHOKUとして新しい担い手を増やすための活動や水産業がカッコイイというイメージを作ろうという活動もしてきたんですが、今回のような海の環境保全に繋がる企画を今までやったことがなく。今回が初めて、ファーメンステーションさんの力も借りながら、石巻というところを中心に海を守ることを日本中に発信していけるような企画になるかなと思っています。実際に使ってみて、何よりもすごくものが良くて、社内モニターとして石鹸やハンドクリームを使ってもらったスタッフから「あれいつ発売ですか?」という声もあったり、このプロジェクトの背景を知らないスタッフの家族からも「10人くらいに配りたい。いつ出るんですか?」と聞かれるくらい。すごく期待をされている良いものになったんじゃないかと思います。やっぱりものが良くて、それが多くの人に届くことで、より良い啓発に繋がっていくと思います。

安達 本当に良いですよね。私もこの製品のプロトタイプを常にカバンに入れて使っていますが、めちゃくちゃ香りも良くて。青森県のヒバを採用していて、青森産を採用することで東北っていうものを強めています。なおかつ、ユニセックスな感じの香りになったので、男性にもオススメできるところが他の製品とはちょっと違うと思いますね。

 この石鹸は生活排水では大丈夫なのかなって思う方もいると思うんですが、実際には海の環境負荷を少なくするために工夫していただいたところはありますか?

渡辺 まず、石油由来の成分を使わない処方にしているところと、あとは石鹸ってパーム油というのを使うんですが、パームの生産に関連して環境破壊や人権侵害が課題になっているので、今回はパームフリー処方で作っています。それと、石鹸を巻いている紙はFSC認証紙を採用しており、ここも陸の環境配慮にあたるところかなと思っています。海だけじゃなくて陸の環境にも配慮している製品になっていますね。

 はい。やれるだけやったって感じですよね。包装の部分でもすごく議論を繰り返した結果が今のカタチに至ってるので、ぜひパッケージごと愛してほしいなっていう気持ちです。

今回のプロジェクトを経て描く未来図とは。

それぞれ違った分野に特化した3社が関わることにより、海を守るためのさまざまな配慮が詰まったハンドケア用品が誕生しました。今回のプロジェクト後に感じたことや想いの部分も最後に聞いてみました。

— 今後もこの3社でのプロダクトはやっていかれるのでしょうか?

安達 結論から言うとぜひ一緒にやっていきたいと思っています。このプロジェクトを通して私たちもファーメンステーションさんのファンになったというのもあるんですが、やっぱり水産業自体が結構大変な状況でして。天然資源が獲れないなら養殖をしたらいいじゃないという話になりがちですが、結局は海の環境が悪化すると養殖自体にも悪影響を及ぼすんです。今まで採れていたのが取れないとか。海の環境を守るために漁師さんや加工屋さんと一緒にできることは限られていて、できるだけ多くの消費者さんたちを巻き込むということは必須になってきています。そういった仕組みを一つずつ変えていって最終的に母数を大きくすることが必要だと思っています。その中で、多くの人を巻き込むためにこの商品に託す思いってのは結構強く、やっぱり何万人とかに届けていきたいと思っています。ハンドクリームと石鹸に加えて、日焼け止めとか、もしかしたらまた違うようなプロダクトとか、いろんなメッセージを発信し続けることで、皆さんの意識を少しでも海の方に向けられたらなというのはあります。それが私たちが目指す活動にすごく直結しているので、ずっと続けていきたいことだと考えています。

渡辺 ずっと憧れていたフィッシャーマン・ジャパンさんとご一緒できるということがまず嬉しいですし、私達も海の環境のことをフィッシャーマン・ジャパンさんとご一緒して、より深く知れた部分はすごく大きくて、それをプロダクトに乗せて伝えていくということを長くご一緒できたらすごく嬉しいなと思っております。

酒井 石巻にも行きたいです。

安達 お待ちしております。フルアテンドします(笑)。

 フィッシャーマン・ジャパンさんとファーメンステーションさんと1年半ほどずっとこの企画の話をしてきて、やっぱりこの3社だからこそこの企画ができたんだなということをすごく感じていて。この3社だからこそ見えているものもありますし、これからもできることがたくさんあるんだろうなと思っていますので、この企画を皮切りにもっと一緒に海を守る活動もそうですし、私たちなりにできることを考えて伝えたいメッセージを皆さんに届けていけたらいいなと思います。実際にこの製品自体も買っていただいた売り上げの一部はフィッシャーマン・ジャパンさんの活動資金にもなりますし、それがひいては海を守る活動にも繋がっていくので、これを選んでいただくこと自体で皆さんにとっても海を守る活動に直接的に参加できるような仕組みにもなっています。ぜひとも皆さん、手に取っていただきたいなと思っています。

ファーメンステーション
https://fermenstation.co.jp/

フィッシャーマン・ジャパン
https://fishermanjapan.com/

JAPAN MADE PROJECT
“日本の地域はおもしろい”
日本には、まだ知らないワクワクすることであふれています。私たちは、その土地を愛してやまない地域の方々とともに、おもしろさや課題に向き合いながら、未来につながる地域の“すごい”を発信していきます。
> Web site
Instagram @ japan_made_project

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Text/Nao Takamatsu

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