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LIFE STYLE&BEAUTY MAY 21,2023

豊かさによって溢れ出る
JAPAN MADE PROJECT KUMAMOTO

“日本の地域はおもしろい”を合言葉に各地域で取り組みを行うJAPAN MADE PROJECT(以降JMP)。第六弾は、海も山も川あり、雄大に広がる自然とそこで営む人々のエネルギーが溢れる熊本。そして、2016年の震災後から復興をみせる力強さもある熊本。そんな熊本をこよなく愛するBRIDGE KUMAMOTOの佐藤かつあきさんとシマノタネの木下真弓さんを迎えて、アーバンリサーチSDR(サステナビリティ推進)宮啓明とアーバンリサーチ バイヤー兼SDR 兒玉倫代が、本プロジェクトについて深掘りしてみます。


※撮影時のみマスクを外しております。会話中はスタッフ全員がマスクを着用し、一定の距離を空けるなどコロナウイルス感染拡大防止対策を施したうえで取材を行っております。

(左から)シマノタネ 代表 木下真弓さん、BRIDGE KUMAMOTO 代表理事 佐藤かつあきさん

JMP KUMAMOTOのキーマン。

まずは、JMP KUMAMOTOのキーマンであるBRIDGE KUMAMOTOの佐藤かつあきさんとシマノタネの木下真弓さんのお二方に迫ってみます。普段はどのような活動をしているのか聞いてみました。

佐藤 僕は熊本の人間ではないんですが生まれが長崎なので九州に戻ろうかということで、今から12年前くらいに妻の実家がある上天草市っていうところに東京から引っ越してきました。ずっとデザイン事務所で勤めていたので、今もデザイン事務所を運営しているのと、2016年に熊本地震があり、そのときにデザイナーとかクリエイティブに携わる人でも何か復興支援ができないかということで、一般社団法人のBRIDGE KUMAMOTOを立ち上げていろんな活動もしています。今は並行して二足のわらじみたいな感じでやらせてもらっています。その復興支援の流れから、環境問題とか障害福祉の分野を視野に入れたアップサイクルなものづくりとか。僕らはソーシャルデザインって大きく呼んでるんですけども、そういった分野の実験というか。自分もはじめたばかりなので勉強しながらやっている感じですね。

 佐藤さんは先日、デザインアワードを受賞されていましたよね。

佐藤 はい。環境省とかも後援しているソーシャルプロダクツ・アワードっていうのをやっていまして、それでソーシャルプロダクツ賞というのをいただきました。

 過去にもいろんなデザインの賞も受賞されているんですよね?

佐藤 そうですね。廃棄予定だったブルーシートを使ったバッグとかのアップサイクルのプロダクトでグッドデザイン特別賞とかベスト100に選んでいただいたりしました。本業のデザインの方ですと竹の箸を作ってる、南関町のヤマチクさんのプロダクトのパッケージデザインは海外でも評価が高いですね。ニューヨークADCとかイギリスのペントアワードというパッケージのアワードやトップアワードアジアというものにも選んでいただけました。

— 他にBRIDGE KUMAMOTOさんとしてのプロダクトはどのようなものがあるんでしょうか?

佐藤 地元の障害福祉の就労継続支援などでものづくりをしてもらうことが増えたので、それを広げていこうと思い熊本城の売店で売っているお守りを作っています。中に熊本城が被災したときの瓦の欠片が入っていまして、これがかなり売れているんです。売り上げの一部は熊本城の寄付にもなります。その他も、宮崎県や大分県といった違う自治体と一緒にお土産品の開発なども進めています。

 すごいです。最近は学校の先生もやられているとか。

佐藤 厳密には「先生」ではないですが、探求の学習という部分でSDGsとかに触れる授業がありまして、そういう場に呼んでいただくことが増えています。学生さんのソーシャルアクションの企画みたいなものをみんなで考えて、それを評価するみたいな話とかはかなり増えているなっていう。いろいろとお声がけいただいてありがたいです。

 九州どころか日本を代表するデザイナーさんです。

— 九州全般のことにお詳しいんでしょうか?

佐藤 そうですね、かなりジャンルは絞られてきますが。ADC(アートディレクターズクラブ)というクリエイターたちの集まりが日本全国にありまして。普通は都道府県単位であるのですが、九州の場合は福岡ADCが九州ADCになり、九州全体のデザイナーやアートディレクターやクリエイティブディレクター、広告代理店も含めて交流しようというものに僕も入っています。先日も九州ADCアワードというのをやっていて、いわゆる広告賞の九州版なんですが、そういうのをやっていると各県のデザイナーさんやカメラマンさんたちと仲良くなるんです。おもしろいことをやっているデザイナーにはやっぱり情報が集まってくるんですよね。おもしろい会社やプロダクトとかが寄ってくるので、大分にはこういう会社があるんだとか鹿児島でこういうプロジェクトがあるんだ、というのが何となく見えてきます。そういう意味ではちょっと偏っているんですが九州全体は結構詳しくなれたかなという気はしています。

— ありがとうございます。デザイナーさんならではの人との繋がりや発見はおもしろいですね。

木下 私はもともと編集や企画といった文章を書く仕事をしていました。今回のプロジェクトへ最初にお声掛けいただいたのは、熊本地震から数ヶ月ほどの復興期。その以前から衣食住の文化の発信など、地域やつくり手さんとの対話の機会も多かったのですが、地震を境に「つなぐ」という意識の高まりを感じていたので、本当にタイムリーだったんです。私は熊本県の西側にある天草諸島の出身で、熊本と天草を頻繁に行き来する間に何か天草に特化したことをやりたいなと思い、2018年にシマノタネという会社を立ち上げていろんな地域の事業者さんの商品開発のお手伝いをしています。あと、天草に来ていただいた方により良く天草を感じていただくための取り組みとして、ランドオペレーターの仕事も始めています。

 木下さんは県内のいろんなことに情報をお持ちで、兒玉と僕が一緒に車で熊本をまわらせてもらったときも、ずっと車内で道中に何かを見つけたらあそこはこれが美味しいとか何でも知っています。

兒玉 そうですね。特に温泉にはお詳しいですよね。

木下 熊本県には100以上の温泉があるので、大学時代から出かけた先の温泉をあちこち楽しんでいます。でも、伝えるならもっとちゃんと知りたいと思い、“温泉ソムリエ”の資格を取りました。あまり器用ではないので聞く取材だけでは理解できないというか、共通の感覚や伝える言葉のバリエーションが欲しくて。天草の雑節の伝えかたを考えたくて“だしソムリエ”の資格を取ってみたりもしました。あと、天草には10ヶ所くらい製塩所があるんですが、その魅力を伝えたくて“ソルトコーディネーター”の資格を取ってみたりとか、何屋かわからない動きをしています(笑)。

 本当にすごいですよね、情報通で。WEBで調べるよりも明らかに木下さんに聞く方が早いくらいなんで。特に天草の町をご一緒したときが、天草のことが本当に好きなんだなっていうのも伝わってくるようなお話とかもたくさんしてくれて、それがすごい印象的でした。

木下 ものづくりをされている作り手さんとかもそうなんですが、その人たちがものを作りたいと思うもっと背景の部分で、その地域の風土や習慣とか歴史文化から受けるインスピレーションみたいなものを表現されていたりするので、それをつなぎたいという強い想いがあるんです。そんなこともあり、遠方からバイヤーとして来ていただく宮さんや兒玉さんたちにも、半分、旅みたいな感覚でお仕事もしていただきたいなと思い、ちょっと楽しみながらやらせていただいています。

兒玉 本当に楽しいです。

佐藤 木下さんがナビゲーターでありコーディネーターなんですが、最近はプロデューサーっぽくもどんどんなってきているというか。天草にとてもお強いから天草の島自体も変わっていくような感じがしています。

JMP KUMAMOTOのはじまり。

精力的な活動をしているキーマンのお二方とアーバンリサーチが繋がった経緯。そして、JMP KUMAMOTOのはじまりの話を聞いてみました。

 もともとのきっかけは、アーバンリサーチがCOCOSA熊本という商業施設にお店をオープンするとなったときに、JMPの熊本をやろうというのが社内で決まったんですね。タイミングとして震災から2年後とかそれくらいでした。当時、Yahoo!の方に熊本の地域に住んでらっしゃるおもしろい方を一緒に回りながら繋いでいただけないかという相談をさせていただいて、そこでお声がかかっていたのがこのお二方でした。そのときに、木下さんが大量の資料を持っていたのを今でも覚えています。それが参考になり、無事にJMP KUMAMOTOがスタートできたなと思います。木下さんはいろんな方との繋がりもあり、しっかりと信頼関係も築けていらっしゃるのがとても素敵だなと思いましたね。佐藤さんも当時、BRIDGE KUMAMOTOを震災直後から立ち上げられ、ブルーシートバッグとかの活動もされていたタイミングだったとは思うんですが、やっぱり熊本に対する想いであったり、もっとこういうのをしていきたいというようなことも車中でお話いただいていたなと記憶しています。こんなときに熊本に来てくれるだけで嬉しいって言ってくれた一言も未だに覚えています。震災というものをネガティブで終わらせずに前を向いて活動していくためにいろんな人に熊本の今を知ってほしいとおっしゃっていたので、これからも一緒に仕事ができるといいなと思っていましたね。

木下 一番最初に伝統工芸館に来ていただいて、じっくり地域のものづくりなどを見てもらって、その後に天草へ向かう道中で名物の鯛茶漬けをみんなで食べた気がします。

 食べましたね。

佐藤 もう、随分と前ですよね。

 そうですね。COCOSA熊本店のオープンが2017年4月なので、2016年の冬だったと思います。

佐藤 お店がオープンしたときの陣太鼓がカッコイイと聞きました。

木下 そうですよね。熊本の銘菓でもある陣太鼓が、アーバンリサーチさん仕様ですごく素敵なデザインになっていました。周年祭など、いろんな事業者さんとコラボしたアイテムをノベルティとしてお配りいただいていますよね。

 オープンのときは利き酒というか日本酒のイベントもやりましたよね。

木下 熊本の手しごとを伝えるプロダクトとして、Ladybugさんに県内3つの酒蔵の酒粕を使った石けんを作っていただいたので、そのリリース記念で。まさかアパレル店で日本酒のタメシノミができるなんて! と驚きでした。

 最初からそこまでできたのも完全に木下さんのおかげというか。

木下 楽しい取り組みって、こんな風に広がるんだと学ばせていただいた気がします。

— JMP KUMAMOTOはCOCOSA熊本店のオープンから始動したということなんですね。

 はい。そのオープンのタイミングから熊本の取り組みがスタートしました。詳しいことは兒玉さんからお願いします。

兒玉 私はJMP KUMAMOTOの立ち上げから1年後くらいに参加しているんですが、そのタイミングでもう既に“味わいのある暮らし”というテーマで商品は揃っていました。野のやの天草更紗を使用したあずま袋や桑原竹細工店の日奈久竹細工という伝統の竹細工のお弁当箱。あとは、ふもと窯のお皿などといった食にまつわるものっていうのがすごく多い印象でした。私も担当させていただいてから、木下さんにはよく2泊3日で毎日12時間くらい一緒にまわっていただきました。紹介していただく方は木下さんをはじめすごく食に対する意識が強いと思いましたね。今よく言う意識高い系とは全然違う、根本的な部分から違うというかそれが当たり前でしょっていう、根本的に意識の高い方が多いなっていう印象はありました。それに、皆さんすごく朗らかで明るくお話好きで心が強い方が多かったですね。“味わいのある暮らし”というテーマも食にまつわるものもそうですし、それ以外に関してもすごく個人的にもしっくりきていたので、今後もできるだけそこから外れ過ぎないようにというのは意識して取り組んでいければと思います。

 今はいろんな方々と特別な取り組みがどんどん発展して、いろんな繋がりができていますね。最近の取り組みで言うとイグサのヨガマットですかね。

木下 熊本県はイグサの日本一の生産地なんですよね。でも、近年の洋室化や生活様式の変化、あとは中国産の畳で安いものが入ってきたりとかして、国産イグサの需要がものすごく減ったんです。イグサってもともとはお米の裏作で作られていたものなんですが、近年の肥料の高騰とかもあったりしてその両方が成り立たなくなってきて多くの人が離農を考えるほどの危機にあるそうで。毎年何十件という単位で、イグサ農家が減っているという状況を八代平野のイグサ農家の岡さんから聞いていました。岡さんご一家は10年以上も前から、循環式の農業を意識した取り組みを続けていることもあり、日本の農業や環境、食卓のリアルな話をたくさん教えていただいたんです。それで、こういう時代だからこそヨガマットのようなライフスタイルに取り入れやすいプロダクトにすることで、農業や循環する営みに意識を向けるきっかけができないだろうかという想いがずっとあって。兒玉さんにも現地に来ていただいて、農家さんとお話をしていただくなかで、実際に商品化していただけることになりました。

兒玉 イグサの香りもすごく良いので撮影したときもめっちゃ良いねってみんなで言っていました。アロマやお香を焚かなくてもマット自体が良い香りなので思わず深呼吸したくなります。

 あとは小代焼の器を買っていただく方が多いですね。小代焼作家の井上尚之さんはBRIDGE KUMAMOTOさんを介してオープンのときからお世話になっている方で、兒玉さんがご家族と仲が良いくらい入り込んじゃっています(笑)。

木下 それぞれの家族のくらしが器に反映されることもあるからか、互いの家族の近況を話しながら、時間が経つのを忘れるほど盛り上がっていますよね(笑)。

兒玉 こないだは木下さんも来ていただいて。ちょっとロングスパンにはなりましたが、毎回あれが楽しくて、時間がかかってでもやっぱりコミュニケーションを取りたいなと思っています。

木下 小代焼って熊本の伝統的な焼きもので、なかでも代表的な名工として知られるのが、ふもと窯の初代 井上泰秋さんなんです。その息子さんである尚之さんは海外のスリップウェアの技法を使って次の小代焼というのを開拓しておられるので、現代人の食卓にも合わせやすいです。尚之さんや兒玉さんたちのやりとりを見ながら、伝統文化って変化しながら繋いでいくものでもあるんだっていうことを学ばせていただけた気がします。

 BRIDGE KUMAMOTOさんに関しては、実際に商品を仕入れたりはまだできていないんですが、先ほど申し上げたコンセプトの部分などは教えてもらったものがすごくあり、勝手ながらJMP KUMAMOTOの説明部分にBRIDGE KUMAMOTOさんのお名前を書かせていただいています。佐藤さんも木下さんも本当に熊本が大好きなんだと冒頭に申し上げましたが、それをすごく感じるので、そのお二方がおっしゃる熊本の魅力を体現しているような方々っていうのは本当に素敵です。そこに関しては僕たちも何かしら発信に対しては制限を設けていないので、必然的にジャンルが広がっていきますし、食であったり伝統工芸であったりと多岐にわたりますね。

JMP KUMAMOTOのこれから。

今後も幅広いジャンルの企画やプロダクトが見込まれるJMP KUMAMOTOですが、これからについてどのように考えているのかを最後に聞いてみたいと思います。

 JMP KUMAMOTOは先ほど申し上げたようなコンセプトで想いを持って活動しているのですが、やはり佐藤さんと木下さんもそうですし、そこから繋がっていく方々ともっと手を取り合いながら熊本の魅力発信と課題解決に取り組んでいきたいなと思っています。BRIDGE KUMAMOTOさんとは、今進めているプロジェクトの話もありますし、BRIDGE KUMAMOTOさんが他で進行中のプロジェクトなどでもご一緒できればと思っております。木下さんはこれからも引き続き、キュレーターとしてお力を貸していただければと思っております。

木下 ありがとうございます。それまで、小さな枠のなかで捉えていた熊本の営みをもっと広い視点で「伝えるべきことつなぐべきものってなんだろう?」と意識するようになったのは、まぎれもなくJMP KUMAMOTOがきっかけです。こうした機会をいただけたことに感謝しつつ、もうひとつわがままを言わせていただけるなら、JMP KUMAMOTOを巡る旅みたいなリアルな旅企画ができたらおもしろそうだなと思っていました。

 それは良いですよね。それは僕もおぼろげながらですけど考えていまして、熊本のツアーで人と出会う旅みたいな。現地の方々と現地のグルメを一緒に食べたり一緒に物を作ったり、何か体験してもらえるような活動っていうのもおもしろそうですよね。

木下 熊本と長崎は30分とか1時間ほどで行き来できるエリアも多いですし、長崎にも行けるので、両方のJMPを巡ることも可能ですよね。

 木下さんは所作と言葉遣いが美しいので、ツアーガイドとかもできると思いますよ(笑)。

佐藤 さっきご紹介した障害福祉施設でのものづくりの話と繋がるかもしれないすが、物とか製品のことをプロダクトって言いますよね。僕は造語でパラダクトという言葉を考えていまして。平行を意味するパラレルとプロダクトを合わせたパラダクトというのを新しいものづくりとして定義づけていこうとしていて、アーバンリサーチさんともノベルティでも何でも良いんですが、そういう仕組みで取り組めると嬉しいなと思います。

 アーバンリサーチもそういったインクルージョンとダイバーシティーに取り組んでいきたいと考えていますし、実際そういったプロジェクトとかもあるので、ぜひぜひ、よろしくお願いします。

木下 後継者をどう育てていくのかという課題ってみなさんお持ちなので、それこそ福祉と繋ぐという取り組みも始まっていたりしますよね。BRIDGE KUMAMOTOさんの取り組みだと、すごくいろんな広がりがあって可能性がありそうですね。楽しみです。

BRIDGE KUMAMOTO
https://bridgekumamoto.com/

シマノタネ
http://shimanotane.jp/

JAPAN MADE PROJECT
“日本の地域はおもしろい”
日本には、まだ知らないワクワクすることであふれています。私たちは、その土地を愛してやまない地域の方々とともに、おもしろさや課題に向き合いながら、未来につながる地域の“すごい”を発信していきます。
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Text/Nao Takamatsu

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