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CULTURE TRIP FEB 01,2023

“欲しい”気持ちから生まれた
異業種コラボのスペシャルプロダクト
by JAPAN MADE PROJECT OSAKA


“日本の地域はおもしろい”を合言葉に各地域で取り組みを行うJAPAN MADE PROJECT(以降JMP)。その連載企画も今回で第三弾となりました。前回、ものづくりの街・大阪を深掘りしましたが、今回もそんな大阪から生まれたプロダクトをご紹介。実はこの企画、業界の違う企業が4社も関わっているんです。そんなスペシャルプロダクトについて根掘り葉掘りと聞いてきました。

(左から)MIZUNO グローバルイクイップメントプロダクト部 用具開発課 橋口友洋さん、アーバンリサーチ SDR(サステナビリティ推進)シニアチーフ 宮 啓明、藤田金属代表取締役社長 藤田 盛一郎さん、TENT プロダクトデザイナー 青木亮作さん

※撮影時のみマスクを外しております。会話中はスタッフ全員がマスクを着用し、一定の距離を空けるなどコロナウイルス感染拡大防止対策を施したうえで取材を行っております。

フライパンジュウが生まれた話。

八尾でフライパンを中心に制作する藤田金属、プロダクトデザインを得意とするデザイン会社のTENT(テント)、日本を代表するスポーツメーカーのMIZUNO、そしてアーバンリサーチの4社が関わったというスペシャルなプロダクトがこの度完成しました。異業種のコラボレーションというのがおもしろいですが、どういった流れで今回の企画がスタートしたのか? まずは、藤田金属とTENTの協業プロジェクトとして生まれた本プロダクトの元であるフライパンジュウの開発の話から探ってみます。

— フライパンジュウ自体の開発を始めた経緯も教えてもらえますか?

藤田 2017年にTENTさんからサンプル依頼があったんですよ。

青木 そのときは全然違うお仕事で、机とかの試作をお願いしていたんです。

藤田 初めはメールと電話でしかやり取りをしていなかったんですが、僕が東京出張のタイミングでお伺いしたら、平安伸銅さんのドローアラインというカッコイイつっぱり棒が展示されていまして。展示会で賞を取られたという話もお聞きして。その2週間後くらいにたまたま平安伸銅さんの社長とお会いする機会があり、「本当、騙されたと思ってTENTさんと藤田さん組んでください」みたいな話を社長からされまして、それが後押しで一回TENTさんにお願いしてみようとなったのが一番最初の話ですね。最初はサンプル依頼をいただいていましたけど、僕らが逆にお願いする形になりましたね。そこから何をしようかと考えていく中で、当時は鉄フライパンで持ち手が着脱できるというものがあまりなかったんですね。スタイリッシュに着脱ができたら良いなって考えたんです。それで、持ち手が着脱できる鉄フライパンというお題を投げさせていただいたら、一発目からこのフライパジュウのデザインがきまして。

青木 正直、思いついたときにメモ書きで“天才だっ”て書いてました(笑)。

一同 (笑)

— アウトドアシーンで活躍しそうなフライパンですが、そのときは今のようなアウトドアの盛り上がりはありましたか?

藤田 全然なかったですね。アウトドアが盛り上がる前からちょこちょこSNSでアウトドアで使っているシーンがアップされていたので、アウトドアでいけるなって逆になった感じです。

青木 でも、アウトドアで問題があったらいけないから、しばらく公式では強く推していかないようにしようってなりましたね。

— フライパンジュウの“ジュウ”ってどんな意味なんですか?

青木 こう並べると数字の“10”になるんですよ。

FRYING PAN JIU FOR URBAN RESEARCH Mサイズ ハンドル付きセット ¥7,700 (税込)

藤田 それと“ジュウジュウ”焼けるという意味もかけています。

青木 ネーミング案は数多く出させてもらって、僕の中では別の気取った感じの提案もあったんですけど、それを推しつつ、「ジュウ」っていうのもありますけどと伝えたら、「それ、めちゃええですやーん」ってなり(笑)。ワールドワイドで通じないのでと説明してもこれが良いとなりまして。

一同 (笑)

藤田 これしかないと思いましたもんね。全部の案を見た中で。

青木 でも、今思えばこれしかなかったんだなって思いますね。

藤田 青木さんは“10”は英語圏では“テン”って発音しますよとおっしゃったんですが、世界まで行き渡らないから大丈夫となったんですけど、その1年半後には世界に知れ渡っていましたけどね(笑)。

— 開発にあたって苦労した点などあれば教えていただけますか?

青木 苦労したのは持ち手部分ですね。大手企業さんだと設計の人とかいろんな人がいっぱい関わるんですけど、TENTの二人と藤田さんしかいなかったので、最初のデザインスケッチではイメージしか描いていなくて、どのような仕組みにするかは考えていなかったんです。ここにネジで止めようとかパカってトングみたいな構造にしてみたりとか最初は全然違うことも考えていました。いろいろ考えていく中で、スライドだってまず閃きました。ただ、それを実現する構造を考えるのも一苦労でして。藤田さんのところは樹脂パーツは作れない工場だったので、鉄だけで極力加工の工程を減らしてどうやって作るのかって考えながら試作を繰り返して、1年半くらいかかりましたね。

藤田 いろいろ試しましたね。これはほんまに時間がかかりました。

青木 落下したら大変なので、絶対にロックして強度もあるものが必要で。一度、我が家で試作品で子どもたちにオムライスを作ったときにグニャって曲がっちゃったり。いろいろ失敗を繰り返していましたね。

藤田 接合部分にはちょっと遊びを作っています。遊びを作らないとスムーズにスライドしないので。ただ、持っていただくと前に重心がかかるのでスライドがしにくくなり、置くと遊びができて簡単にスライドができる構造です。

青木 鉄フライパンを使って初めて気づいたんですが、強火でやると焦げて調理が大変なんですけど、弱火でじっくり焼くとめちゃくちゃ美味しくて、鍋を振る必要性がそもそもないんです。

橋口 鉄フライパンで弱火で調理できるのってすごい良いですね。大体、最初は強火でやらないとこびりついちゃうことが多いんですけど。

藤田 それは弊社の鉄フライパンのこだわりの部分でもあります。鉄フライパンによくあるクリア塗装というサビ止め塗装をしているものとかサビにくい窒化加工というのがあるんですけど、それって基本的には自分で油を馴染ませていったりとかその塗装を剥がさないといけない空焚きが必要だったりするんです。弊社の鉄フライパンに関しては空焚きと油慣らしを自社でやっています。一個一個、バーナーで本体が真っ赤になるくらい焼くことで酸化皮膜というのができ、その後にオリーブオイルで油を馴染ませることで、使い始めからフライパンが育った状態でお客さんに届けるようにしています。

今回のスペシャルコラボ企画。

藤田金属とTENTの協業で、何度も試作を繰り返してようやく生まれたフライパンジュウ。そのプロダクトの新たな可能性を感じさせる今回のスペシャルコラボ企画についても探ってみた。

— どういった経緯で今回の企画がスタートしたんですか?

橋口 弊社がスポーツ用品を作るにあたり、スポーツ以外の業界からもアイデアを取り入れられないかという議論を社内でずっとしていまして。その中で私が料理好きということもありキッチン用品とかそういう関係の中からスポーツ用品に転用できるアイデアはないだろうかといろいろ探していたんです。そして、フライパンジュウのことを雑誌などで拝見して知っていたので、一回営業に行ってみたいなと思い突撃してみました。そのとき、社長はいなかったので名刺だけ残して後日連絡しました。

藤田 最初は何しに来たんやろって思いましたね(笑)。

橋口 それで、一回話してみようとなりました。MIZUNOとしてはバットなど金属加工はやっていたので、そこにフライパンのコーティングだったりとか加工技術を使えないかという話をしていたんですけど、ギャラリーを見させていただく中でフライパンに使用している持ち手の木のサンプルを発見しました。MIZUNOにはバットを作る工程で節が見つかってしまうなどの製品に不向きな木材がたくさんあるので、それを使えないかという話になり。実際バットの木材って固くて強いというか、加工するには少し扱いづらいんですよ。でもフライパンの持ち手に関しては、スポーツ用品みたいに長く使うという意味で親和性があるのではないかという話になりました。

藤田 バットも振るしフライパンも振りますもんね。

一同 (笑)

藤田 その後、バット用の木材を送っていただいて、すぐに木工屋さんに渡して試作を作ってみようとなりました。そしたら良い感じに仕上がったので、これはいけるなと思いまずは個数限定で依頼をしました。

橋口 すごい展開が早くて。最初にお会いしたのが8月くらいだったので半年以内くらいでここまできたって感じです。

藤田 廃材というのは使用済みではなく使用前のものですか?

橋口 そうですね、商品として使用する前のものになります。種類もいろいろありまして、円柱状態の木材のものからちょっと加工したもの。そして、今渡しているのがほぼバット状態のものです。ここまで加工してから木の中にある割れ目とかに気づいたりするんです。ここまで加工するのに人件費や管理費などさまざまな手間がかかっているので、材料的にももったいない廃材ではあります。ですので、これを使わない手はないなと思っていました。他に割れていなくても節というものがあったら、そこにボールなどが当たると割れたりするので、スポーツには適さないものになってしまいます。そういう素材もあるので、フライパンとかで使用するのであれば全く問題ない木材として使ってもらえます。

— 今まではそうした木材の再利用などはしていたんですか?

橋口 弊社でもお箸やけん玉、カレンダーとかも作ったりしていたんですけど、あまり数が出る商品ではないのでフル活用はできていなかったですね。それと、販路も野球関係をはじめとするスポーツ関連の店舗が多かったので、大きく使い切るためにはスポーツの域を出ないとできないなというのはありましたね。

— 藤田金属さんに目を付けるあたり、すごいアンテナを張られていますね。

橋口 僕の中では藤田金属さんが会社からこんなに近かったんだと思いましたし、ずっとフライパンジュウが欲しいなとも思っていたので、もし一緒に取り組むことができたら手に入れられるんじゃないかという気持ちはありました。そして今回、コラボという最高の形で実際に手に入れることができました(笑)。

一同 (笑)

— 持ち手の木の素材もある程度強度は必要なんですか?

藤田 そうですね。もともとビーチ材、ブナ材という素材があるんですが、それはフライパンの持ち手によく使われているものなんです。それを一個は採用し、あとは家具とかでも使われている茶色いウォールナット材も採用しようと。今回のMIZUNOさんの木材はよりずっしりとした感じですね。

橋口 そうですね、密度がある感じです。

青木 最初は仕上げの工程の違いだと思っていたんですが、同じ加工方法でも素材によってこんなに違いが出るんですね。触り心地が全然違います。

橋口 バットも実際選ぶときに、カンカンって叩きつけて選びますもんね。良い木材は金属のような音が鳴るというか、バットに使われる木自体はどっちかというと硬めというか高い音が鳴るというか。そういう意味では落としたらすごい良い音が鳴ると思います。

— ポーチを作った経緯も教えていただけますか?

 一番最初にFactorISM(ファクトリズム)に携わっている松尾さん(株式会社友安製作所)のアテンドで藤田金属さんに来させてもらい、そのときにフライパンジュウのサンプルをお預かりして実際に使っていたんですよ。それで大ハマりして、料理は美味しくなるしどこにでも持って行けるしというのを自慢してまわっていたんです。それで持ち運ぶときにケースが無いということで、いつもトートバッグで持ち運んでいたんですけど、ガチャガチャ鳴るし困っていたところで今回の企画の話があり。改めてスタートするときに自分が欲しいから専用ポーチも作っちゃえという流れでした。

青木 最初は専用の、いわゆるポーチとして提案していただいたんです。でも、せっかくやるのであれば、グッとくるものを作りたいですよねと提案させていただき、それで、サイズが可変でランチョンマットにもなるというこの形になりました。予定外のことを提案してしまったので、最初はギョッとされるかと思ったら前のめりに対応していただきました。

 フライパンと持ち手が別々に収納できるのが良いですよね。この発想は全然僕たちにはなかったですね。

青木 SからLまでサイズ関係なく使えますね。フライパンを机にそのまま置くと焦げてしまうので、こうやって鍋敷きにもなるのも便利ですよね。

FRYING PAN JIU FOR URBAN RESEARCH Mサイズ ハンドル付きセット / TRIVET POUCH
FRYING PAN JIU FOR URBAN RESEARCH Mサイズ ハンドル付きセット ¥7,700 (税込)
FRYINGPAN JIU×URBAN RESEARCH TRIVET POUCH ¥4,950 (税込)

 耐熱材などを入れているわけではないので、多少フライパンと接する部分は熱で布にテカりが出るかもしれないですけど、それも味ということで良いのかなと思っています。

藤田 それを11月(2022年)のイベントで出そうと決まっていたんですけど、せっかく一緒にやるのであれば持ち手もなんか変えたいですよねという話になり。ウォールナット材とブナ材がある中で、例えば違う木とかでという案も実はあがっていたんですよ。でも、現状すぐには厳しいとなっていたタイミングで、ちょうどMIZUNOさんから話が来て。これはガッチャンコできるなと思いました。

橋口 バットの廃材をフライパンジュウに使ってもらえるなんて思っていなかったです。

藤田 これをアーバンリサーチさんとのコラボとして先行販売としてやった方がランチョンマットのポーチも活きるなとも思いました。

青木 もともと、アーバンリサーチさんからこのプロジェクト自体をちょっとサステナブルな方向でお願いしたいとお聴きしていたのもあり、廃材を利用するのも受け入れてもらいやすいかなと思いました。

 だからこのポーチもたまたま間に合わなくてよかったですね。ネガティブをポジティブに変換できたと思います。

— 実際に出来上がってみてどうですか?

橋口 最高ですね。

青木 個人的には裏に各社の名前とかを刻めたことがすごい良いなって思います。

橋口 弊社としても表側に名前がドーンと出て欲しくなかったというか、主役はうちではないのでこれくらいの名前の入り方が良い仕上がりだなって思います。

 最初はハンドルの色を変えれないかという要望はあったんです。でも、フライパンジュウのブランディングもあると思いますし、誰かが損をするような企画ではなくみんながやってよかったと思える企画にしたかったので、今回のMIZUNOさんのような素材をご提案していただけたのも非常に嬉しかったです。この間バット工場に行かせていただいたので、なおさらこの持ち手に愛着が湧きますね。何よりもみんなの想いが一つになったのがすごくよかったと思いますね。

藤田 結果的に自分が欲しいという気持ちから始まったのが良かったですね。

橋口 今回の取り組みを通して、今まで価値のなかった廃材に価値が付くのは感慨深いなって思いましたね。

青木 そういえば、今回のMIZUNOさんの廃材を使用した持ち手は実際に手に取ると違いが分かるんですよね。手触りが良いというか印象がすごく良くて。それがネット上での写真だけでは伝わりづらいので、実際に手にとってもらいたいですね。

 そうですね、実際に触って確かめてもらいたいです。

藤田 使っていくたびにバットと同じで経年変化もしていくと思うので10年使ったものも見てみたいですね。

今後の展望について。

さまざまな偶然が重なり、今回の企画が生まれました。最後は、この企画をきっかけに今後チャレンジしたいことなどの話を聞いてみました。

— 今後チャレンジしたいことなどあれば教えてもらえますか?

 フライパンジュウはiFデザイン賞を受賞されていてすごく評価されているものなので、プロダクトとしてどうこう言えるものではないなと正直思っています。この先、このポーチのようなライフスタイルの中で使うときにより良くなるものとか、そういったものを一緒に考えたり、藤田金属さんの技術を使って新しいプロダクトができれば良いと思いますね。MIZUNOさんとも大阪企業として繋がれたので、また異業種コラボというか手を取り合っておもしろいことができるのを期待します。

橋口 藤田金属さんのように新しいことにチャレンジできるようにしていきたいですし、技術的な交流もしていきながらもっとおもしろいものができたら良いなと思います。フライパンに限らず今度はスポーツ用品とか一緒に試してみたいですね。別の切り口から全く新しいことができたら最高です。

藤田 弊社も現状キッチン用品がメインにはなっていますが、それこそTENTさんがきっかけでテーブルランプとか園芸の鉢といった違う部門の商品も作っています。それこそ、MIZUNOさんがおっしゃっていたスポーツの何かとかチャレンジしてみたいですね。それをすることで技術力が磨かれるんです。何度も失敗はするんですけど失敗は経験値として蓄積されるので、技術力はどんどん進化していきます。他社さんと一緒にやり、要望に応えることで技術力が上がっていきます。協業の大切さというか、それがものづくりに対して大切な部分だなって思いました。

青木 フライパンジュウのファンになってくれた方がすごくたくさんいて、期待値が高まっていて嬉しいんですが、その人に対してさらなる何かを提供できてない部分があり、そこに申し訳なさがあったんですよね。今回のような協業の形をとることで、たとえばこのポーチがフライパンジュウのファンにとってのプラスになる可能性ができたと思います。バットの件もしかりなんですが、協業することでフライパンジュウのファンの方が喜ぶ次の提案の間口が広がったというか、今後もそういったアクションを起こしていけると良いなって思います。

JAPAN MADE PROJECT
“日本の地域はおもしろい”
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Text/Nao Takamatsu

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